ときあかせ!辰鼓楼・機械式時計の謎

こんにちは。今日は「時」に関するとても面白いテーマに関わることになった話を紹介します。

兵庫県の北部、豊岡市には出石という町があります。出石そばで知られ、但馬の小京都とよばれる美しい観光地です。出石のまちの象徴は、辰鼓楼(しんころう)という古い時計台です。

辰鼓楼は1871(明治4)年4月14日、出石藩と地元の名士らが建造しました。当初は楼閣に据え付けた太鼓をたたいて時を知らせましたが、1881年に地元のお医者さんが寄贈した機械式大時計が設置されました。機械部分はその後変遷があり、現在は4代目の大時計が時を刻んでいます。北海道の有名な観光スポットである札幌市時計台とほぼ同時代で、国内でも最古級の時計台のひとつです。




気になるのはどちらが古いか?ということですが、辰鼓楼の地元のNPO法人「但馬國出石観光協会」が2021年、稼働開始日を調べたところ、札幌市時計台が27日早かったことが分かったそうです。この結果は地元にとっては少し残念なものでしたが、正直に発表したところ、好感をよび、出石の時計台・辰鼓楼は、より注目を浴びる人気のスポットとなりました。

ところで札幌の時計台の機械部分は米国製ですが、辰鼓楼の時計の機械部分は、どこで作られたのかよくわかっていません。オランダ製と記述した文献もありますが、導入時の記録が少なく、国内で作ったのか海外のものを輸入したのかよくわかっていません。初代の時計の機構部分は現存しているものの、多くの部品が失われており、残っているのは枠組みと一部の部品のみです。

そこで、観光協会の方々は、出石の時計の初号機が国産なのか海外製なのかを調べるため、兵庫県立大学に調査を依頼しました。兵庫出石・辰鼓楼機械時計科学調査プロジェクトのページはこちらです。ここに情報が集まっています。

当初、初号機の金属成分を分析する方針でしたが、一部を削り取らねばならず、初号機の損傷を避けるため文献や資料による調査を優先させることになりました。その過程で、兵庫県立大の永瀬先生から、当館に調査協力の相談が来ました。興味深いテーマですので、喜んで調査に関わることになりました。

さらに面白いことを教えてもらいました。初号機の次に設置された2号機も保管されているというのです。2号機は、昭和28年に製作され、機械部分がほぼ完全な状態で残っています。2号機を分析すれば初号機のヒントになるかもしれません。
大変興味深いことに、2号機の時計の裏には、製造元と考えられる明石市の所在地名が記されていました。このことは、ニュースにもなりました。

時のまち明石とはいいますが、明石市内で、出石の時計の機械部分が作られていたということは、ほとんど知られていない事実でした。私も知りませんでした。地元の時計屋さんや先輩学芸員になどに聞いても、みな初めて聞く話とのこと。当館は昭和35年に開館しましたが、時計製造はその前の話です。当館にもこの件に関する資料はみあたりません。ニュースを見た方から情報が寄せられており、確かに実際に作られた方がいらっしゃったのは間違いないと思われます。明石と出石が結びつき、その謎はとても面白くワクワクしています。

こうした調査協力の一環として、この度、「ときあかせ!辰鼓楼・機械時計の謎」という特別展を当館でおこない、この調査プロジェクトを紹介することになりました。(当初予定していた「機械式時計の世界」はタイトルと内容を少し変更することになりました)関係各位の格別のご協力により、展示の目玉として、なんと「初号機」と「2号機」実物が当館で特別公開しみなさんに見てもらえることになりました。


(写真の左が1号機、右が2号機 ※1)

5月31日に当館に運び込み、6月8日~7月15日の間展示をおこないます(※2)。この面白いプロジェクトが広く知られ、情報が集まってくることを期待しています。出石の時計のなぞを、ときのまち明石で、「ときあかし」て、プロジェクトのお手伝いができればと考えています。こうご期待!

※1 初号機と2号機は、2024年4月現在、兵庫県立大学に保管されています。過日、私も訪問し、機構部分の状態などを確認しました。その時の様子はこちら

※2 関連企画として2024年6月9日14時~16時ごろにはオンライン配信も予定しています。プロジェクトの説明や機械時計の魅力を紹介します。また、6月10日「時の記念日」は、月曜日ですが通常開館とします。詳しい行事予定決まりましたらお知らせします。

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